Nekotamibnneko

2017年3月4日土曜日

【第一章:マレビト・スズと風の国 五~六 】

EARTH FOCUSさん(@earthfocus)がシェアした投稿 -



なんかね……けっこう、おかしな日本語部分とか直してます。

我ながらけっこうアホだにゃー、
というガッカリ感が半端ないですけどね!!(>ェ<);


あと「今読むと分かりにくいかな?」という部分の加筆修正とか。


思った以上に進みが遅くてごめんなさい。
いつ終わるんだろうこの作業。(-ェ-);


でも確実に、以前の文よりは良くなっていると思います。
これが最後の修正になると良いけれど!(TェT)



そういうわけで、もうしばらくツイッターや他サイトへの
ログインも休みますので、もし緊急で何かありましたら
ヤフーメール【 mifunasiro☆yahoo.co.jp 】までお願いします!

※☆を@に変えてください。




以下、  【第一章:マレビト・スズと風の国 五~六 】となります。



☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ 


【第一章:マレビト・スズと風の国 五】


食卓には湯気の立つ、美味しそうな料理が並べられていた。

大きな楕円形の木製のテーブルには、先ほどの子ネコたちが
じゃれあいながら並んで席に着いている。

向かって右側の子ネコは薄茶色の虎模様で、
左側の子ネコは白地に両耳の先だけ茶色い模様だ。
どうやらどちらも男の子らしい。

母ネコのマオもそうだが、ネコたちは皆よく見れば、
チベットやモンゴルなどで見るような、
着物に近いアジア系の民族衣装風の服を着ている。

子ネコたちはこちらに気づいて少し驚いたようだが、
進一郎が「さっきはごめん」という気持ちで軽く頭を下げると、
何か囁きあって、嬉しそうに二人で手を振ってきた。
そしてまたふざけあい始めた。

ギンコに促されて子ネコたちの向かい側の奥の席に着くと、
母ネコのマオが、彼女よりもほんの少し大柄なネコと一緒に
大きな木の板のようなものに乗った何かを運んできた。
大柄な方のネコは、腰にハンマーをぶら下げている。

あまりにも当然という動きなので無意識に受け入れていたが、
ネコたちはみんな二足歩行で立ち上がり、
尻尾でバランスをとるようにして綺麗に歩いている。

「わぁ、岩イノシシの釜土焼きだ! 豪華!!」
子供たちより先にギンコが反応すると、マオが答えた。

「一年前にあなたとシルフのみんなが
獲ってきてくれたのを解凍したのよ。
あんまり大きいから、こういう時にでもたくさん食べないと!」

ドスンという感じでテーブルに乗せられたそれは、
分厚く大きな木のお盆のような物の上に直接置かれた、
電子レンジほどの大きさの黒い塊だった。
焦げた鉄のような色と形のそれからは、全体から薄く煙が立ち昇り、
ジュウジュウと今も肉が焼ける音がしている。

どう見ても固くて食べられそうにないものだが、
その塊からは食欲をそそる香ばしい香りが漂ってきていた。

進一郎がじっと見ていると、
マオと一緒にそれを運んできた大柄なネコが声をかけた。

「これはね、こうやって食べるんですよ」
そうして腰に下げていた大きなハンマーで黒い塊を叩いた。
すると鉄の塊のようだったそれに、いとも簡単にヒビが入った。

ヒビの間からは肉汁が溢れ、湯気があがった。
赤身の柔らかそうな肉が湯気の合間に見えている。

「イワイノシシはね、外皮が岩みたいに硬いんだ。
だけど焼けばこんな風に簡単に割れるようになるんだよ」
ギンコが教えてくれた。

マオが割れ目からナイフを入れて肉を切り分け始めた。
観察してみると、ハンマーで叩いた面の両サイドは、
ナイフで軽く掃うと煤が取れ、これがこの動物の丸焼きではない、
巨大な生物のほんの一部分だという事が連想できた。

「はじめまして、この辺りの“ミオの祠《ほこら》”の
神主をさせてもらっている、タオと申します」
ハンマーを持った大柄なネコが進一郎に近づいてきて、挨拶をした。

「もうご存知かもしれませんが、
家内のマオ、子ネコたちは右がラオ、左がテオです」

どうやら彼はマオの夫であり、子ネコたちの父親のようだ。
マオは白ネコで額にわずかな茶色の模様があり、
タオは全身が濃い虎縞模様だった。
タオは進一郎よりほんの少しだけ背が低い。

「は、はじめまして」
進一郎は立ち上がって頭をぺこりと下げた。
そういえば世話になっておきながら、
ネコたちとちゃんと話すのは初めてだった。

「あの……助けていただいてありがとうございました。
そのうえご飯までいただいてすみません……
あの、オレ、鈴木進一郎といいます」

「ああ、いやいや、
君たちマレビトを助けるのは私たちの役目でもあるんだよ、
気にしないで。それよりせっかくの料理が冷めてしまうよ。
もっとも猫舌な私たちにとっては、冷めたくらいが
ちょうど良いんだが……さ、とにかくいただこうか!」

タオはそう言うと、軽く進一郎の肩を叩くと椅子に座らせた。
そして自分も子ネコたちとギンコの間の席に着いた。
マオはそれぞれの皿に肉を取り分けると、
子ネコたちと進一郎の間の席に座った。

では、とタオが音頭をとった。
「新しいマレビト、スズキくんの来訪を祝って!
……いただきます!!」
ぽふんと両手を合わせ、そう大きな声で言った。
「いただきます!」みんなが唱和した。

意外と普通だ。ただ“鈴木”の発音が
“都築”とかそっちのアクセントだったが。

ちょっと拍子抜けしたが、お腹が空いていたので
長い決まりごとの挨拶などがないのは嬉しかった。

そういえば箸やナイフやフォークなどが用意されているが、
ネコの手でどうやって食べるんだろう、と前を見てみると、
子ネコたちの手の爪が少し開くようになっており、
その間から人間の指のようなものが出て
フォークやナイフを握っていた。
よく見てみると、肉球と同じ色をしているようだ。

「…………」

「ああ、この子達はまだ子ネコだから、
上手く爪だけ引っ込められないのよ。
大きくなれば、こんな風に、ほらね?」
マオがお手本を示すように、フワフワの毛で覆われた手から、
ピンクの肉球と同じ色の指だけを出して見せた。

「……なるほど」
進一郎は半笑いになった。
これなら道具だって人間と同じく使えるだろう。
それどころか素手に天然のカッターや
ナイフまで装備されているようなものだ。
今更ながら猫が肉食獣だという事を思い出した。

「進化ってすごい」
それから自分のお皿に切り分けられた
岩イノシシの肉を恐る恐る口に運んでみた。

「……美味しい……!」
皮の部分が岩のようになっているせいか、ステーキ皿の上で
温められ続けているような、程よいレア加減の柔らかな肉だった。
白いご飯があれば最高だが、ネコはお米を食べたりするのだろうか。

テーブルを改めて見回してみると、何かの鳥の丸焼きだとか、
魚のお刺身や唐揚げ、貝のスープ、グラタンのような
クリーム煮のもの、野菜や果物のスライスにチーズなど、
実に豊富なメニューが並んでいた。
ただそのどれもがほんの少し、
地球のとは違う種類のものらしかった。

横目で見てみると、ギンコは
「マオさんのお料理はやっぱり美味しい」と
どれも片っ端から取り寄せて口に運んでいた。

こっそりと、食べても大丈夫な食材なのか聞こうと思ったが、
目が合うと「ほら、遠慮しないで」と言いながら、
進一郎の取り皿にも
「これはカゼクイドリの丸焼きで、
そのスープはコウガイの一種だね」
といろんな料理を片っ端から盛り付け始めた。

取り分けてもらった以上残すのは失礼と、
進一郎もどれも少しずついただいてみたが、
本当にどれも美味しかった。
ただ何だかは解らないが、一味足りないような気もした。

首を傾げていると、ギンコが
「いる?」と小さな小瓶を2本出してきた。
相変わらずどこから物を取り出しているのか解らない。
中には薄い黄色い色の粉と、白っぽい色の粉が入っている。

「ガーリックパウダーと、オニオンパウダー」

そう言われて「そうだ」と、足りない味の正体に気がついた。
ニンニクや玉ねぎの味や匂いがしないのだ。

「ボクらにとってはただの野菜でも、
ネコたちにとっては命取りになる物もあるんだよ。
だからニンニクや玉ねぎなんかは、マレビト登録して、
許可を得ないと所持できないの。毒と同じだから。
もちろん勝手に自分以外のヒトの料理に入れたりしたら犯罪ね」

「へー……」進一郎は感心した。
詳しくは謎だが、思っていたよりも
ずっとしっかりしたルールがあるらしい。
せっかくなのでひと振りずつスープに入れてみると、
お馴染みのコンソメ風味に変わった。

しばらくすると、テーブルのお皿の上もだいぶ空になり、
みんながお腹いっぱいで満足の表情になっていた。

「まだみんなのお腹に入るかしら……」
そう言いながらマオは、
生クリームたっぷりのミルクケーキを運んできた。
添えられた飲み物はホットミルクだった。

ほんのりとした甘さのデザートを食べながら、
タオが進一郎に話しかけてきた。
「それでスズキくんは、猫好きかい?」

一瞬ミルクで咳き込んだが、正直に
「ええと……普通です」と答えた。
母親の実家で飼っていたから可愛がったこともあるが、
両親が共働きの東京の家では世話をする人がいないからと、
ペットは飼ったことがない。

好きか嫌いかで聞かれたら好きだと答えるとは思うが、
“猫好き”かと問われればそこまでではないだろう。

言ってしまってから「普通」は失礼だろうかと思ったが、
以外にもタオの反応は好意的なものだった。

「うんうん、普通が一番だよ。
前回来たマレビトなんてなぁ、お前。
母さんに手を出すかと思ったぞ。」

「もう、あなたったら、子供たちの前で!」
マオが顔を赤らめた(ように見えた)。まんざらでもなさそうだ。

確かにものすごい猫好きの人間が来たら、
ここは天国のような場所かもしれないな、と進一郎は一人納得した。


「ごちそうさまでした!!」

子ネコたちとギンコがほとんど同時に声をあげた。
進一郎やタオやマオもごちそうさまでした、と微笑んだ。

子ネコたちが自分のお皿を調理場に運んで行くのを見て
進一郎も手伝おうとしたが、お客様だから、
とマオがやんわりと断りを入れた。

「それよりもギンコ、お風呂に案内してあげて。
きっと疲れがとれるだろうから。着替えは脱衣所に用意してあるわ」

マオがそう言うと、椅子の上で寛いでいたギンコが立ち上がった。

「ああ、そっか。
色々教えなきゃいけない事がまだあるんだった。
じゃあ行こうか、スズキくん!」

ギンコにもタオの呼び方が伝染ったようだ。




☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ 







【第一章:マレビト・スズと風の国 六】

食堂から出て左のドアを抜けると、
いわゆる大浴場のような空間が広がっていた。
温泉特有のお湯の香りが漂っている。

思っていたよりもずっと広く、食堂や進一郎が寝かされていた
部屋の向こうにもいくつか別のドアがあったことから、
全体では軽く体育館ほどの広さがある施設のように感じられた。

「こっちの向かって左側が男性用、右側が女性用だからね」
ギンコが手で示しながら案内を始めた。

左側の壁沿いには、トイレがあった。
龍のマークのプレートがかかっている青いドアを開けて
中を覗いてみると、いくつかの個室が並んでいる造りで、
見た目はほとんど地球の水洗トイレと変わらない。

ただギンコが言うには、
「背中の下の方のところに穴が開いてたりするけど、
それは尻尾を通す穴で、ボクらにはあんまり関係ないから」
との事だった。

ドアを閉めて風呂の方へ進むと、左奥の壁には
青い背景に金色の龍が描かれた巨大な絵画が掛かっていた。

近寄ってよく見ると、それは細かな宝石や
砂金で描かれた砂絵のようだった。

「本物……?」
あまりに豪華絢爛な壁画に思わず触って確かめたくなったが、
下手にいじって壊れでもしたら怖い。
すべて本物の宝石や金で出来ているのなら、こんなにも無防備に
誰でも盗れる状態にしておいていいのだろうか。

「これはね、こっちでいう神様。
男性の龍の神様で“フィルコ”。女性の神様は虎で“ミオ”。
だから施設とかで龍の絵やマークが描いてあれば、
それはほとんどの場合、男性用ってこと。
虎の絵が描かれていたら、女性用。覚えてね?」

右側の壁を見ると、二つのドアを挟んで、
紫色の縞のある白虎の絵が、オレンジ色の背景で描かれている。
あちらが女性用ということか。

「あと、色だと青か金がフィルコの色だから、男性用。
女性はオレンジか紫。金と紫は尊色だから、
トイレなんかにはだいたい青とオレンジが使われるけど」

「はあ」と進一郎は頷いた。日本では男性が青か黒、
女性が赤という感じなのでまあまあ覚えやすい。

「というわけで、お風呂!」
龍の絵の脇を通り、手前の青い色のドアを開けた。

床は木製から、大理石のような質感の石に変わっていた。
スリッパを脱ぐと、ほんのりと暖かい。
あとは地球の大浴場の脱衣所とほぼ同じような作りだった。
奥のすりガラスの扉の向こうから、お湯が流れる音が聞こえてくる。

「ボクも一緒に入って男同士の友情を深めたい……ところだけど、
ボクは君が寝てるあいだに入っちゃたから。一人でごゆっくり」
とギンコが笑った。
初対面の人間とお風呂というのも緊張するので、内心ほっとした。

「水道の使い方なんかはたぶん向こうと一緒だから。
赤いほうがお湯で、青いほうが水。着替えはここにあるからね。
あとは……そうそう、タオルもあるけど、
お風呂上がりはこれも楽しいよ!」
壁の一角に縦型の大きなエアコンがはめ込まれたような箇所がある。

「お風呂から上がったら、ボタンを押してみて!」
そうして手を振ってドアから出て行った。

やれやれ、と服を脱ぎはじめたところで、バタンとドアが開いて
「あ! 医務室から荷物運んでおくから! 
男性客の泊まり部屋は、食堂の隣の右側の奥の部屋、
青い色のドアだからね。
それからこれ、湿布をこの中に入れてくれる?」
と、持ってきた蓋付の白いバケツのようなものを示した。
中には水のようなものが入っている。

あれは医務室だったんだな、と思いながら、
素直に手や足に貼られた湿布をはがしてバケツの中に入れた。

はがしてみるまでわからなかったが、湿布の内側では
緑色のジェルのようなものがプルプルしていた。
微かにミントのような爽やかな香りがする。

ギンコは「ミカヅキモは再利用しないとね」と蓋をしめた。

藻? 生物とか理科で習った、あのミカヅキモ?? と、
突っ込みたかったがもう疲れてきたのでそこは受け流すことにした。

「あ、二段ベッドの上と下、どっちが良い?」

もうそんなのどっちでも良いです、と答えようと思ったが、
今日は一日、まだ受験生なのに落ちまくっていたことを思い出した。

「下の段で」

「うん、じゃあ今度こそごゆっくり!
……ボクは先に寝てるから、ゆっくり温まって来てね!」

一分ほど様子見をしたが、今度こそギンコは戻ってこなそうだ。
服を脱ぎながら「ようやく一人になれた」、と思いつつも、
広い大浴場にぽつんと一人なのは少し寂しい気もした。

手ぬぐいサイズのタオルを借りて風呂場に入ると、
そこには小さなプールほどもある巨大な湯船があった。

金の龍の口をかたどった蛇口から
湯量豊富なかけ流しの温泉が注がれ、
天然温泉独特の、心が浮き立ちつつもほっとする
良い香りの湯気が風呂場全体を暖めている。

湯船の向こう側の壁には、銭湯の富士山の絵のように
金の龍の絵が描いてある。これもあの龍の神様なのだろう。
よく見ると五本の角がある。

意外にも、というか、もう大概のものは
こちらの世界にもあるのかもしれないが、
髪も洗えるボディソープのような物があったのでそれを使った。
優しい、爽やかな自然の花や果物のような好ましい香りだった。

体を流して温かい湯に浸かると、
一気に疲れが取れてゆくような気がした。
実際、傷や疲れに効く効能の温泉なのかもしれない。
透明感のあるオレンジ色のお湯を透して、手や足を見てみると、
すり傷やアザが見る間に薄くなってゆくような気さえした。

「のんびりした世界なのかなぁ……」
誰もいないのを良い事に、ちょっと浮いたり泳ぐようにして考えた。
このお湯に浸かっていると、良い意味でどうでも良くなりそうだ。

十五分程ぼーっとここに来てからの事を思い出してみたが、
湯船で眠りかけている自分に気がついて、慌てて出ることにした。

脱衣所にはバスタオルも用意されていたので
それを腰に巻いてみたが、ギンコの言っていたボタンの事を
思い出したので、壁に埋め込まれた機械に近づいて押してみた。

カチッという音がして、すぐに壁から
ゴォっという勢いで、やや熱めの突風が吹いてきた。
タオルが吹き飛んで髪の毛がめちゃくちゃになったが、
ドライヤーのような騒音は無く、何より体はすぐに乾いた。

ボサボサになった髪の毛を手で直し、
「全身が毛だらけのネコたちは、
体全体をドライヤーで乾かさないと、か」とつぶやいた。
なんだかこの世界も楽しく思えてきた。

そしていつの間にか、自然に微笑んでいる自分に気が付いた。
ふと、「この世界に来る前の自分はこんな風に笑えていただろうか?」
そんな思いがよぎった。




用意してもらっていた寝巻きのような服に着替え大浴場を出ると、
食堂の灯りは柔らかなオレンジ色の光に落とされ、
静かに廊下を照らしていた。

壁に掛かっている時計を見てみると、十時程を指しているようだ。
ネコたちは早寝なのか、あまり気配がない。
たぶん、医務室の向こうの扉の先が家族の寝室なのだろう。

食堂を抜けると、左側にはオレンジ色の扉、
右側には青い色の扉の付いた二部屋があった。
「青い色が男性用……」
とつぶやきながら進一郎はそちらに向かった。

そっと扉を開けると、部屋の壁際に
ランプのような小さな灯りが見えた。
ランプの中身は炎ではなく、それ自体が光を発しているようだ。

それが乗せられているのは腰の高さほどの棚で、
棚の右側のフックには細長い筒状の物が何本か下げられていた。

棚は四つに仕切られていて、
右側の棚の上には雫が三つ重なった模様のバッグと、
小さな竪琴のようなもの、そしてギンコの仮面が入れてある。
下の段には、進一郎のバッグが入っていた。

部屋の真ん中には小さなテーブルと椅子が四脚、
棚を挟んで右と左には、二段ベッドが一つずつ設置されていた。
右側の上の段にはギンコが寝ている気配がする。

起こさないように、なるべくそっと下のベッドに入った。

医務室と同じく心地の良いベッドだったが、
風呂上りの目は冴えて、すぐには眠れなかった。

このまま朝になって、そうしたら。
進一郎は考える。

ただ元いた世界に帰る。
こんな『おとぎ話』みたいなネコの世界の話は、
きっと誰も信じてくれないだろう。
たぶん穴に落ちた時に見た夢だとか、幻覚だと思われるだろう。
自分自身だって、まだ信じられないのだ。

帰って何日かしたら、きっと自分でも
これは夢だったのかもしれないと思うだろう。
それで終わりだ。何も変わらない。

こちらの世界にしばらく残ったらどうだろう?
これからこの世界で何があるかは解らないけれど、
とにかくきっと、変化はある。
少なくとも自分の中の何かが変わる気がする。
そう思いたいだけかもしれないが、そんな予感がする。

何より心のどこかが『オレはここに居たい』と、
叫んでいるような気がした。

同時に、せっかく入試を受けた高校はどうなるんだ、
帰るのが遅れれば勉強も遅れるしクラスに馴染めないかもしれない、
といったような不安な気持ちも湧き上がってきた。
そもそも合格通知が来た時に本人が存在しなかった場合、
後からの入学は許されるのだろうか?

そうしてまた、あちらの世界に帰った自分を想像する。

周囲と上手くやるために、毎日無難に作り笑いをして生きている。
自分がバカにされないために、
時には他人を無視したり貶める事もある。

そこそこ上手く生きてはいる、
だがほとんど生きている意味が見つけられない自分がそこにいる。

何度考えても堂々巡りだった。
そもそも何で自分は生まれてきたのだろう。
ありのままの自分が居ていい場所、
居たい場所さえ見つけられないのなら、何で。

涙がこめかみを伝い、髪を濡らして枕に沁みていった。

「やっぱりオレの居場所なんて、どこにもないのかな……」
自分でも知らないうちに声に出していた。

「それはこれからゆっくり探せば良いと思うよ」
天井から、いや二段ベッドの上から声が聞こえてきた。

「という、ボクの寝言」

本心を聞かれた恥ずかしさに顔が真っ赤になりかけたが、
最後の一言に救われて笑ってしまった。

ずいぶんはっきりした寝言だな、と思いながらも小さく
「おやすみなさい」と声をかけた。

「おやすみ……という寝言」とギンコも答えた。

ギンコの一言でなぜか安心できたせいか、眠くなってきたようだ。

ほとんど心は決まっていた。
どこにも進めない世界はもう選ばない。

進一郎は眠りについた。



☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ 


















Nekotamibnneko